アラ還オヤジの備忘録

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FTEとプロジェクトの”炎上”


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FTE換算で人員の割り当てをするようになってから、一体どれくらい経つのだろう。

ご承知の方も多いと思うので、詳しい説明は省くが、FTEはFull-Time Equivalentの略で、日本語訳は「フルタイム当量」、「常勤換算」となるらしい。

 

その昔、人員配置は、もっぱらHC(Head Count)ベースだった。例えば、Aプロジェクトに必要な人員は5人、ということは、単純に頭数として5ということだ。”頭”数だから、例えば、それを分解するという発想は、そこにはない。Bプロジェクトには8名、Cプロジェクトには6名必要なら、合計19HCが必要ということだ。

 

ところが、FTEの概念が入ってくると、様相が変わってくる。例えば、Aプロジェクトに必要なFTEは4.5、Bプロジェクトは7.2、Cプロジェクトは6.45というように。(合計は18.15FTEだ。)

そうなると、プロジェクトに配置される人員もHCベースで配置するわけにはいかない。何しろAプロジェクトに必要なFTEは4.5なのだ。4名は1FTEずつだったとしても最後の一人は0.5FTEしか配置できない。この場合、最後の一人の余りの0.5FTEはどうなるのか?そのまま放っておけば、人件費を半分無駄にすることになる。結論としては、残り0.5FTEは、他のプロジェクトに配分され、これで人件費の無駄はなくなった。めでたし、めでたし。でも、本当のそれでいいのだろうか?

 

そもそも”Aプロジェクトに必要なFTEは4.5”というのは、どれほどの”信ぴょう性”があるのだろう?業界によっては、かなりの精度で計算できるのかもしれないが、少なくとも私がこれまで経験してきた業界では、かなり怪しいものだった。こう書くと、鉛筆を舐めながら適当に数字をつくっていたのだろうと思われるかもしれないが、然に非ず。膨大な量のアサンプションと計算式を用いて算出されているのだった。その結果得られる必要FTE数は、一見、信用に足るもののように見えるが、”膨大な量のアサンプション”を用いるということは、裏を返せば、ちょっとアサンプションの数字をいじれば、途端に必要FTE数も変わるということだ。時には、経営上のプレッシャーから、必要FTE数を調整(要は削減)する事態が発生することは、想像に難くない。

 

一方、プロジェクトにアサインされるメンバー側の問題もある。当たり前のことだが、仕事に対する習熟度、処理のスピードには個人差がある。もちろん、そのような個人間の”ギャップ”を埋めるためにトレーニングを行い、ラインマネージャーは適宜指導していくのだが、ギャップを”ゼロ”にすることは不可能だ。さらに言えば ”1FTE”の算出に当たっては、最も”理想的な”(要は当該業務に習熟している)メンバーを想定しているケースが少なくない。

 

以上に述べた、FTEを計算する側の事情と、アサインされるメンバー側の事情が積み重なった結果、何が起こるのか。プロジェクトの”炎上”である。プロジェクトの期限は守られず、さらには熟練度の低いメンバーが(多くの場合メンタル的な理由で)プロジェクトを離脱する。こうなると、新たなメンバーの採用と訓練が必要となり、タイムラインはますます遅延し、新メンバーが戦力になるまでの期間、既存のメンバーはさらなるプレッシャーにさらされるという悪循環に陥るのだ。

 

こんな話を、もし「ゆとりの法則」(原題:Slack、訳:伊豆原弓の著者であるトム・デマルコに聞かせたら、「だから言ったでしょう」と呆れられることだろう。

本著の中にはFTEという言葉は出てこないが、そこに書かれている内容は、まさにFTEによるアサインメントの弊害をどのように解決するかの処方箋だ。実は、私自身、デマルコの処方箋に従ってプロジェクトの人員配置を行ったことがある。結果は非常に良好だった。だが、それを長く続けることはできなかった。組織のトップがそれを許さなかったのだ。口では、「社員第一」などと言いつつ、現実にはタイトなFTE計画と、経験不足なメンバーのアサインメントをゴリ押しすることによっての業績アップに固執したのだ...。

 

実は、本書を最初に手に取ったのは、今から15年前のことだが、改めて読み返してみると、最初に読んだ時の理解が非常に浅かったと痛感した。本書の体裁、語り口は非常にフランクで、著者自身も「ニューヨークからシカゴ、あるいはアムステルダムからローマに向かう飛行機のなかで、最初から最後まで読めるようにまとめた」と言っているほどなので、読了にそれほどの時間はかかるまい。FTE管理に疑問をお持ちのかたは、”ご一読”ならぬ、”2~3読”をお勧めする。