アラ還オヤジの備忘録

雑感や、その他諸々。

ベーシックインカムと失業保険


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昨日の朝、朝刊を広げると、いくつかの週刊誌の広告が目に入った。その中で、私の興味を引いたのは、パソナグループ会長の竹中平蔵氏が語ったという「月7万円のベーシックインカム」についてのものだった。世間に疎い私は全くノーマークだったのだが、先月23日夜のテレビ番組での発言らしい。

これに対し、ツイッターでは<#竹中平蔵は月7万円で暮らしてみろ>というハッシュタグがトレンド入りしたそうだが、竹中氏の主張は「月7万円を支給する代わりに年金も生活保護も必要なくなる」というものでもあったそうだから、一般市民のこのような反応は、当然と言えるだろう。

 

竹中氏の名前が、具体的に私の脳ミソにインプットされたのは、今から約20年前、氏が小泉内閣で経済財政政策担当の特命大臣に就任する1年ほど前に出版された「経済ってそういうことだったのか会議」(著:佐藤 雅彦、竹中 平蔵)を読んだ時だったと思う。

共著者の佐藤氏が同郷(と言ってもかなり先輩だが)と教えてくれる人がおり、手に取ったのだ。今回の件で、久しぶりに本棚から引っ張り出してみた。

さすがに20年前の著作だけあって、今読んでみると、すでに死語と化しているものもある。たとえば「”とらばーゆ”で職探し」と聞いて、今、どれほどの人がピンとくるだろうか。そんな子細なことを除けば、全体としては、経済学の入門書として今でも十分通用する良書と思う。ただ、本書の第9章”人間とは「労働力なのか」-労働と失業”の記述は、竹中氏の現在の肩書が”パソナグループ会長”であることを考えると、非常に興味深い。

 

さて、ベーシックインカムである。コロナ禍での大量失業時代に直面する中で俄然注目されているわけだが、すでにいくつかの実例があるそうだ。フィンランドでは2017年から2年間、560ユーロのベーシックインカム給付実験を行ったとのこと。今の為替レートだと、ちょうど約7万円(!?)。ただ、ベーシックインカムには「最低限の文化的・社会的生活を送るのに十分」な”完全”ベーシックインカムと、それ未満の”部分的”ベーシックインカムがあり、フィンランドの例は後者に当たるとのことなので、やはりEUでも7万円では不十分ということだろう。また、スペイン政府は今年5月末にベーシックインカムの導入を決め、6月中旬から申請の受け付けを開始したそうだが、支給条件が非常に複雑である等の理由から、支給は遅々として進んでいないという。因みに支給対象人数は約230万人にも上るとのこと。

 

こうして、規模の大小はあれ、実際に導入が始まっているベーシックインカムだが、もちろん賛否両論がある。たとえば、貧困者の自立支援のため「グラミン銀行」を創設し、2006年にノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌスは、日本の新聞社のインタビューの中で、コロナ禍でのベーシックインカムについて、次のように答えたという。「失業して収入が途絶えた人々にとって、いまは適切な緊急援助策でしょう。ただ恒久的な政策になり得るわけではない。」

 

一般市民の私が、ベーシックインカムの是非について述べるのも烏滸がましいが、しいて言えば、私自身の考えはユヌス氏に近い。今は”緊急”事態であり、”失業して収入が途絶えた人々”への援助が必要だろう。その観点からすれば、日本では、その役割を失業保険が果たすべきと思うのだが、現在の制度設計で、この未曽有の緊急事態に十分対応できるのだろうか。

 

雇用保険の給付を受けるには、まず、対象となる労働者が雇用保険の被保険者である必要がある。正社員では、まず問題なかろうが、非正規労働者のなかで、雇用保険の加入条件を満たし、保険料を支払われているケースというのは一体どれくらいの割合なのだろうか?何しろ竹中氏が「経済ってそういうことだったのか会議」のなかで「ですから今、派遣従業員を認めろとか、パートのあり方を規制緩和しろとか、そういう面での議論が非常に活発になってきました。まさに労働のアロケーション、つまり配置を自由化することです。」と述べて以来、「雇用の流動化」は急速に進み、現在の非正規労働者の割合は平成元年比で、男性は約3倍、女性は約2.5倍にもなっているというのだ。

また、過去に雇用保険の加入条件を満たし、保険料が支払われていたケースでも、その後1年を超えて未払い期間があった場合は、それまでに支払われた保険料は”リセット”されてしまう。過去に10年間雇用保険料を納付していようが、たとえそれが20年だろうが、1年を超えての空白期間が発生すれば、それ以前の納付部分はすべて”没収”されてしまうのだ。非正規労働者が、雇用保険の加入条件を満たす環境下で継続して働き続けるというのは、はたして現実的な想定なのだろうか。

 

因みに、失業手当として支払われる基本手当日額の下限額は、年齢に関係なく、2千円とのこと。30日であれば6万円だ。実は、竹中氏の”7万円”という金額は、フィンランドの事例より、むしろこちらの数字を参考にしたのでは、と感じた(単なる邪推にすぎないが)。一方、最高額は8,370円(対象年齢は45歳以上60歳未満)。こちらは30倍すると約25万円になる。実際の支給額の分布がどのようになっているのか、是非知りたいところだ。

 

過去の雇用保険料の納付の有無にこだわらす、失業手当の支給条件を見直し、”失業して収入が途絶えた人々”への援助のために税金を使う方が、全国民を対象とした一回こっきりの10万円給付より、よほど実効的と思うのだが。