アラ還オヤジの備忘録

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アントレプレナーにセーフティネットは不要か


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以前、ベーシックインカムと失業保険で、「過去に雇用保険の加入条件を満たし、保険料が支払われていたケースでも、その後1年を超えて未払い期間があった場合は、それまでに支払われた保険料は”リセット”されてしまう。」と書いた。その時、念頭にあったのは、非正規労働者にするセーフティネットだったが、同様のことは起業家(アントレプレナー)にも起こりうる。

 

”起業家”と聞くと、何かお金を持っていそうな印象を受けるが、必ずしもそんなことはない。自分の周りにいる起業家たちを見ても、将来の株式公開を夢見て、今は耐え忍んでいる、というケースが少なくない。

 

「ゴー・パブリック」(市川一郎著)は、ごく普通のサラリーマンの主人公が起業する物語だ。

大手メーカー入社4年目の彼は、社内のある出来事から、会社を辞め、起業を決意する。そんな彼が、いろいろなトラブルを乗り越え、6年後には新規株式公開(IPO)を果たすというサクセス・ストーリーだ。奥さんもおり、起業3年後には長男も生まれる。そのような生活上のイベントと、IPOに至るイベントがパラレルに描かれている。公開業務に携わったことのある方々が読んでも、非常にリアリティがある内容だと思う。

 

さて、この主人公のケースは、苦難の末にめでたく上場という”ハッピー・エンド”で終わるのだが、現実はそれほど甘くない。ベンチャー企業の生存率は、日経ビジネスの記事によれば、創業から5年後は15.0%、10年後は6.3%。20年後はなんと0.3%だそうだ。

 

例えば、もし、この主人公が起業3年後に、努力の甲斐なく廃業を決断しなければならない事態に陥った場合を想定してみよう。妻もおり、長男も生まれたばかりだ。借金がなければよいが、それでも日々の生活費は必要だろう。そんな彼にセーフティネットはあるのだろうか。たとえば、もし失業手当を受け取ることができれば、少なからず助けになるのではないか。

 

彼は起業する以前、大手メーカーに3年以上勤務していた。当然雇用保険に加入し、保険料を支払っていたはずだ。しかし、残念ながら、今となっては、彼は失業手当給付の対象外だ。起業を決めたのは彼で、創業当初の社員は自分を含めて二人だけだったが、その会社での彼の肩書は”代表取締役社長”だった。現在の雇用保険の立て付けでは、代表取締役雇用保険に加入することはできない(”社員”は自分を含めて二人でもだ)。従って、起業後3年間は保険料を納付していなかった(納付したくてもできなかった)。冒頭に述べた通り、過去に雇用保険の加入条件を満たし、保険料が支払われていたケースでも、その後1年を超えて未払い期間があった場合は、それまでに支払われた保険料は”リセット”されてしまう。よって、主人公は失業手当を手にすることはできないのだ…。

 

「独立・開業を考える人間は、そもそもリスクを承知で始めるのだから、セーフティネットなど不要。失業手当などもっての外。」という意見もありそうだ。しかし、本当にそれでよいのか。

 

経済産業省のホームページを見ると、「『日本再興戦略』(平成25年6月14日閣議決定)において『開業率が廃業率を上回る状態にし、開業率・廃業率が米国・英国レベル(10%台)になることを目指す』」と掲げている。」とある。要は、国としても開業率を増やして、経済の底上げをしたいということなのだ。しかし、残念なことに、少し古い数字だが、平成27年度の開業率は5.2%とのこと。目標達成には程遠い。一方で、開業を推し進めておきながら、他方、失敗したら何のセーフティーネットもなく”自己責任”というのでは、開業に躊躇するのも当然だろう。そもそも、現在の失業保険の立て付け、すなわち「社長は経営者であって労働者ではないのだから、失業保険の対象外」という考え方が、現実にマッチしていない。その昔は、就職から定年まで、一つの会社で”勤め上げる”のが良しとされ、起業どころか、転職さえ憚られる雰囲気があったものだ。そんな中、社内の出世競争に勝ち残った人間が、役員になり、やがて会社を去っていく頃には、年齢も60歳を超え、子供も独立し、家計の心配もない。そもそも退職金ももらえる。そんな状況であれば、「役員は労働者でないから失業保険の対象外」でも問題なかろう。しかし、今の時代は、そんな経営者ばかりではない。「ゴー・パブリック」の主人公は、28歳で起業し、社長になったのだ。

 

何も、アントレプレナーに特別なサポートをすべきと言っているのではない。せめて本人が過去に支払った雇用保険に見合うくらいの失業手当は給付してもよいのではないか。開業にはアクセルを吹かし、セーフティーネットにあたる失業保険の枠組みについては、昭和の頃のままというのは、如何なものか。Go to キャンペーンで経済回復にアクセルを吹かす一方、感染予防については相変わらず「マスク・手洗い」と国民の「民度」に頼るのみという、今の状況を連想してしまうのは、私だけだろうか…。