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“人に関心を持たなくてはならない”の著作権は誰にある?


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ビル・キャンベルの名前が最初に自分の頭にインプットされたのは、ベン・ホロウィッツの「HARD THINGS」を読んだ時だ。

キャンベルは、ホロウィッツが創業したラウドクラウドの取締役で、本書の中にも二人のやり取りが何度か出てくるが、それとは別に、ホロウィッツはキャンベルの人物像を詳しく紹介している。そんな中でも、最も興味を惹かれたのは、キャンベルがCEO を務めたGO Corporationでの逸話だ。1994年に廃業したGOは、ビジネス的には決して上手く行ったとは言えなかった、というより大失敗だったのだが、そこで働く人々は、ホロウィッツによれば、「ひとり残らずこの会社を人生でもっともすばらしい職場のひとつだと思っていた」。そして「ほかのことはともかく、ビルのようになって良い会社をつくってほしい。」と結んでいる。社員たちが「稼ぐ」ことができなかった会社に対してこのような賛辞を贈る理由について、ホロウィッツはGOのことを「人生最高の職業体験」や「働きやすい職場」と説明しているが、自分としては、消化不良は否めなかった。「HARD THINGS」は、ビル・キャンベルについての本でもなく、勿論GOについてのものでもないので、そのうち、ビル・キャンベルについての本が出ないかと思っていたところで出会ったのが、「1兆ドルコーチ」(原題:Trillion Dollar Coach、エリック・シュミット、ジョナサン・ローゼンバーグ、アラン・イーグル共著)だ。

この本、ページ数は300を超えるが、文字は大きく行間も広い。以前、FTEとプロジェクトの”炎上”の中で、トム・デマルコの「ゆとりの法則」を紹介した際、“著者自身も、ニューヨークからシカゴ、あるいはアムステルダムからローマに向かう飛行機のなかで、最初から最後まで読めるようにまとめたと言っているほどなので、読了にそれほどの時間はかかるまい。”と説明したが、“軽く”読めるという点では、本書もいい勝負だ。

 

さて、内容だが、本書で説かれているビル・キャンベルの“教え”のエッセンスは、ホロウィッツの「HARD THINGS」でかなりの部分が既に紹介されているという印象だ。以前、一人のマネージャーは何人のスタッフを持てるのかの中で、“ホロウィッツはグローブの熱烈な信奉者で、非常に大きな影響を受けていたであろうことをうかがい知ることができる”と書いたが、ホロウィッツは、オペレーションについては、アンディ・グローブのやり方を見習う一方、メンタル的な面については、ビル・キャンベルに感化された部分が大きいのではないか。そういう意味では、既に「HARD THINGS」を読まれた方には、敢えて本書を手に取るまでもないかもしれない。ただ、既に述べた通り、本書は“軽い”ので(「HARD THINGS」の方は、幹部を解雇する際の心構え等、かなり“重い”内容も含まれている)、試しに読んでみるのもいいかもしれない。

 

さて、そんな訳で、すでに「HARD THINGS」を読んでいた私にとっては、「1兆ドルコーチ」を読んでの新たな“学び”は、それほど多くはなかったとも言えるのだが、一か所、気になる部分があった。 “Chapter 5 パワー・オブ・ラブ 「やさしい組織」になる” の中の以下の記述だ。

 

「人を大切にするには、人に関心を持たなくてはならない」。これは私たちがビルとの会話で何度か聞いた言葉だ。何か古い名言のようだが、そうではない。少なくともネット検索では見つからなかった。よって私たちはここに著作権を主張する─「人を大切にするには、人に関心を持たなくてはならない」!

 

正直、この部分を読んだときは、思わずのけぞった。“著作権を主張する”とは、いかにも強欲なアメリカ人ビジネスマンの発想だが、この文章を読んだときに、私には「人に関心を持たなくてはならない」の出所について、ピンとくるものがあったのだ。デール・カーネギーの「人を動かす」(原題:How to Win Friends and Influence People)だ。

この本については、今さら内容を紹介する必要もないだろう。Amazonの商品説明に、“日本で500万部突破の歴史的ベストセラー。人が生きていく上で身につけるべき「人間関係の原則」を実例豊かに説き起こした不朽の名著。”とある通りだ。実は、本書の中で、カーネギーは、わざわざ「誠実な関心を寄せる」という章をたて、人間関係の中で、他人に関心を示すことが如何に重要かを説いている。さらに言えば、カーネギーは、そもそもこの言葉はアルフレッド・アドラーの著書の中にあると言うのだ。(残念ながら、私には、アドラーの、どの著書がそれにあたるのかは、見当がつかなかったが…。)

 

こうして見ると、キャンベルの“教え”には、「人を動かす」の中に述べられていることとの共通点が非常に多いように思う。もしかしたら、キャンベルも「人を動かす」の読者だったのか、そんな想像をしてしまうほどだ。

 

それにしても、本書「1兆ドルコーチ」の三人の著者はGoogle関係者、エリック・シュミットに至っては元CEOである。それが、“少なくともネット検索では見つからなかった”とは…。検索エンジンを作ることにかけては天才的な彼らも、それを使って実際に検索することは、意外と不得手なのか。思わずそんなことを考えてしまったのだった。