アラ還オヤジの備忘録

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“政治的”とは何か


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どこの業界も似たようなものかもしれないが、自分がこの10年ほど身をおいていた業界は、本当に“狭い世界”だった。どの会社に勤めているどいつがどんな奴なのか、大抵わかってしまう。特にマネジメントレベルの人間は、業界内を魚が回遊するかの如く渡り歩いていたりするので、その人物と一緒に仕事をした経験があるという人たちもその分だけ多く、「ああ、Aさんね、あの人は…」というような感じで、ちょっと名前が出ただけで、滔々と語ってくれるという人も少なくない。かく言う私も、図らずも“回遊”していたクチなので、自分が知らないところでどんな風に言われているのか、考えただけでも恐ろしい。とにかく、一つ言えることは、“変なことはするな”ということだ。よい評判というのはなかなか広がらないが、悪い評判というのはあっという間に広がってしまう。“滔々”と話をする語り手の舌が滑らかになるのは、間違いなく“悪い”評判のほうだ。特にポジションパワーを“笠に着”ての道に外れた振る舞いは、“物語”の格好のターゲットとなる。「実るほど頭を垂れる稲穂かな」とは、よく言ったもので、こうあるべきと、誰もがわかっていても、実際には、なかなかそういう人物は少ないように思う。かく言う私自身も、周りからはどのように見られていたのか、今さらながら考えてしまうのだ。

 

さて、話がちょっと逸れてしまったが、“狭い世界”の続きである。ある時、外国人の上司が来日した時の話。彼は、私の直属の上司でアメリカ人。以前、隠れトランプとアメリカ人上司で、アメリカ人上司達との間の経験を紹介したが、今回の彼は、アメリカ人だが、大変な日本通で、日本語もかなり出来た。また、奥さんが中国人ということもあり、アジア的な価値観のようなものを理解している人だった。そんなわけで、彼は、私の経験したアメリカ人上司の中では、数少ない、自分第一主義な匂いが薄い人だった。そんな彼と、寿司屋でランチを共にしていると、彼から「あなたの前の会社の上司は、随分と“政治的”な人だと聞いていますが、実際、どうでしたか?」と尋ねられた。そもそも私の前の会社の上司が誰かを知っているという時点で“狭い世界”なのだが(私から、前の会社の上司が誰だったか話をしたことはおろか、その人物の名前を出したことも一度もなかった)、そう聞かれて、私は一瞬、“う~ん”と唸ってしまった。確かに、前の会社の上司(彼も外国人だ)は、余り評判の良い人とは言えなかった。私がその会社を辞めた後、彼もその会社を去ったのだが、余り幸せな辞め方ではなかったと、風のうわさで聞いていた。ただ、彼を“政治的”と言うのかどうか。そもそも“政治的な人”とは、どういう人のことを指すのだろうか…。

 

そんな経験が頭に残っていたのだろう、パトリック・レンシオーニの「あなたのチームは、機能してますか?」(原題:THE FIVE DYSFUNCTION OF A TEAM)を再読していた際、主人公のCEOが、“政治的”の意味をマネジメントチームに説明している場面が目に留まった。

CEOのキャサリンがマネジメントチームのメンバーに対して、「これほど政治的なグループは、あまり見たことがない」と言ったことに対して、COOのニックが「政治的というのがどういう意味か、正確に教えてもらいたい」と迫った。それに対するキャサリンの説明は以下の通りだ。

「政治的とは、自分が本当にどう考えるかではなく、ほかの人にどう反応してほしいかによって、言葉や行動を選ぶこと」。

 

実は、ここまで書いて、ちょっと引っかかることがあった。日本語の“政治的”と、英語の“politics”は同義なのだろうか?確かに私の上司もあの時、寿司屋で“political”という単語を使っていた。自分は、それを日本語の“政治的”と解釈したのだが…。

そんなわけで、本書の原著の該当する部分を見てみると、キャサリンのセリフの英語バージョン(というか、こちらが本家だが)は以下の通りだ。

“Politics is when people choose their words and actions based on how they want others to react rather than based on what they really think.”

本書の翻訳者もpoliticsを政治的と訳している。“Politics”と“政治的”は同義でよさそうだ。

 

件の“前の会社の”上司だが、この定義を踏まえた上で、彼の当時の言動を思い返してみると、確かに“政治的”と言われても仕方なさそうに感じられたのだった。

 

さて、話は変わるが、新型コロナウイルスの第三波は、いよいよ深刻な状況になってきた。首相、担当大臣、官房長官をはじめとする政府・与党、それ以外の国会議員、地方自治体の首長、専門家に医療従事者と様々な“ステークホルダー”がそれぞれの立場から発言をしているが、現場の窮状を率直に訴えるものがある一方で、「本気でそう思っているのか」と突っ込みたくなるような、まさしく“政治的”な発言も少なくないと感じるのは私だけだろうか。第二波が収まったころならまだしも、今は、何かを忖度している状況ではなかろう。手遅れにならないことを願うばかりだ。