アラ還オヤジの備忘録

雑感や、その他諸々。

「両立」しないもの


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近頃テレビのニュースを見ていて、気になっているフレーズがある。「感染防止と経済活動の両立」だ。それが可能なら、それに越したことはないが、実際問題、本当に“可能” なのだろうか?

 

「感染防止と経済活動の“両立”」というフレーズを聞いて思い出されるのは、トム・デマルコの「ゆとりの法則」(原題:Slack、訳:伊豆原弓)の中の一節だ。

ある日デマルコは、友人であるケイパーズ・ジョーンズとホテルのロビーで偶然出会う。ケイパーズは、プロジェクトのスケジュール管理と見積もりを専門とする会社の創業者で、それらに関する分析ツールを開発している。彼は、ホテルのロビーでデマルコに分析ツールの最新バージョンのデモを見せる。プロジェクトに関するいくつかの質問に答えれば、プロジェクトの予想スケジュール、必要な人員の補給パターンなどを提案してくれるのだが、質問の中に、「何を最適化したいか」という項目があった。選択肢として、次の二つのラジオボタンが表示される。

  • 時間を最小限に抑える
  • コストを最小限に抑える

この、どちらか一方を選択しなければならないのだが、ケイパーズはデマルコに、次のように愚痴るのだ。

「この選択肢のことで、クライアントからずいぶん苦情を言われているよ。どうしても時間とコストの両方ともを最小限に抑えたいというんだ。」

そんなクライアントに対して、ケイパーズは、辛抱強く、二つの相互依存する変数を両方とも最小化することはできないと説明する。「『時間とコストの両方を最小限に抑える』という第3のラジオボタンを作りたい気持ちにもなる」とこぼしながらも、「論理的には馬鹿げたこと」というのが本心だ。このエピソードに対するデマルコの感想は、こうだ。

「この第3のラジオボタンへの需要は、現代の経営の悲しい現実を物語っている。」

 

自分の経験から言っても、このような要求をしてくるクライアントは少なくない。しかし、現実には、時間を最小限にするには、そのための追加リソースを投入しなければならない。リソースが追加されればその分コストもかかる。中には、「時間が短くなった分、リソースも減るのではないか」などと言ってくるクライアントもいるが、ちょっと考えてみれば、それが「論理的に馬鹿げたこと」なのは、すぐわかる。確かに、時間をゼロにすれば、リソースもゼロだ。そして、成果物もゼロなのだ。

 

ケイパーズのケースは、時間とコストの両方を“最小化する”だが、冒頭のテレビニュースのケースは、「感染防止効果」と「経済活動」の両方の“最大化”だ。 “大”と “小”の違いはあるが、「二つの相互依存する変数を両方とも最小化することはできない」のと同様に、二つの相互依存する変数を両方とも“最大化”することもできないと考えるのが「論理的」だろう。

 

デマルコは、「この第3のラジオボタンへの需要は、“現代の経営”の悲しい現実」と言ったが、日本が新型コロナ感染の第三波の脅威に晒されている中で、今、為政者達が語っているコロナ対策が、のちのち「“日本の政治”の悲しい現実」などと言われないことを祈るばかりだ。