アラ還オヤジの備忘録

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iDeCoの“デスバレー(死の谷)”


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素人投資家が憂う日銀のETF購入はNISAの話だったが、今回はiDeCoである。財テク雑誌などを見ても、NISAとiDeCoは、両方とも頻繁に取り上げられていて、どちらが得だとか、或いは両方活用を“賢く”活用しましょうとか、まあ、NISAもiDeCoも投資しておいて損はないという趣旨の話がほとんどと思う。

 

以前、自分が社員数10人くらいの外資企業の日本支社を預かっていた時のこと。優秀な社員を獲得するためには、福利厚生も充実させねばと、あの手この手を打っていたのだが、最大の難関は退職金制度だった。何しろ退職金を出すには“原資”がいる。当時の日本支社の売り上げ規模から考えても、本社の人事部門が日本独自の退職金制度にOKを出すとは、到底考えられなかった。仕方なく、その当時は、まだ発刊されたばかりだった「小さな会社のための新しい退職金・企業年金入門」(山崎俊輔著)なども読んで“勉強”した。

結果、社員達には、自社の退職金制度の代わりに、まずはiDeCoを活用してもらおうと、銀行からファイナンシャルプランナーの方にオフィスまでお越し頂いて、説明会を開いたりしていた。

 

社員数10人と言っても社員のプロファイルは様々で、20歳代の若手もいれば60歳を超えた“ベテラン”もいた。iDeCoの説明会には、そんなベテランも参加するのだが、説明会が終わって当然出たのは、 “なんだ、60超えたら入れないんじゃないの”という不満の声である。

そう、当時、iDeCoの加入年齢は60歳未満、つまり59歳までだった。“当時”といっても今から3年ほど前である。そんな昔のことではない。すでに“65歳定年”は当たり前である。それにもかかわらず、iDeCoの加入は59歳まで。全く、“お国”のやることは万事この調子と、諦めにも似た気持ちになったものだ。

 

そんな状況を変えたのは、今年5月に行われた法改正。60歳未満だった加入条件が65歳に引き上げられた。めでたし、めでたし、と終わりたいところだが、さにあらず。実は法改正は今年の5月だが、施行は2022年の5月、何と2年後だというのだ。それでは、今年60歳になる人はどうすればいいのか。ファイナンシャルプランナーさんがやっているウェブサイトなどをみると、親切にも「2022年5月より前に60歳になるiDeCo加入者は、2022年5月に再加入できるように、60歳の時点で受け取り手続きをしないように」などとアドバイスして下さっている。要は、法改正が今年の5月でも、施行は2年後、それまでに60歳になる人の加入期間は、そこで一旦終了です、ということだ。全くもって、“不細工” な制度設計と言うより他ない。2年後に再加入可能とわかっているなら、そのまま加入を継続させれば何の問題もなかろうに、それをわざわざ一旦“脱退”させ、2年度に再度加入の手続きをしろとは、一体どれほど無駄な労力を国民に負わせたら気が済むのか。余りの“イケてなさ”に、60歳の誕生日を境に突然訪れるこの未加入期間を、“iDeCoのデスバレー(死の谷)”と命名することにする。( “人に関心を持たなくてはならない”の著作権は誰にある?に出てきたエリック・シュミット達と違い、著作権を主張したりはしない。“デスバレー”と言えば、ベンチャー企業界隈では、手持ちのキャッシュよりバーンレートが勝り、資金が底をつく状況のことを指すが、まあ、それくらい有難くない状況ということだ。)

 

因みにiDeCoの加入には、年齢以外にも “国民年金被保険者”という条件が付いている。自営業者などの第1号被保険者は、そもそも60歳で国民年金被保険者の資格を喪失するから、法改正後も60歳以降はiDeCoに加入することはできない。アントレプレナーにセーフティネットは不要かは、失業保険受給資格についての国のちぐはぐな政策についてだったが、こちらも“ちぐはぐ度” は似たようなものだ。国の政策として開業率を増やしたいのなら、自営業者への“手当て”も時代に即したものにすべきだろう。一昔前なら、“自営業者”と言えば、農林業や小売業などの“家業を継ぐ”人たちが中心だったが、今では、専門知識を生かしたコンサルなどのフリーランス業にシフトしてきているのは総務省労働力調査からも明らかだ。そんな新しいタイプの自営業者達が“老後に備える”上で、サラリーマン達と“差別”される道理はないと思うのだが。