アラ還オヤジの備忘録

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睡眠薬混入事故と東海村臨界事故


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水虫治療薬に睡眠導入剤の成分が混入した問題、昨年12月11日の発覚後、様々な報道がなされているが、その原因については、未だに納得できる説明が聞かれない。直近の報道では、有効成分の容器と、混入した成分の容器が、同じ棚の上下に並べて置かれていたとのことだが、果たしてそれが実際に作業した社員の問題なのかどうか、現時点では自分にはわからない。というのは、もしその“置き方”が、会社で定められていたのなら、社員はそれに従っただけだからだ。

医薬品の製造においては、事細かに“SOP”が定められているはずだ。SOPとは、Standard Operating Procedures、すなわち“標準作業手順”のこと。有効成分の取り扱いについては、その容器の種類、置き場所、さらに置き方まで細かく定められているはずだ。普通に考えて、製薬会社の工場に勤務する人間が、自らの“独断”でSOPに外れた手順を取るとは考えにくい。昨日の報道では、会社側が、それぞれの有効成分が入っていた容器は「大きさや形が全く異なって」おり、「一般的な感覚では間違えないレベル」と説明しているそうだが、この説明を聞いても、「一般的な感覚では間違えないレベルの大きさ・形の違いなので、同じ棚に並べておいても問題ない」と考え、その結果、SOPには「同じ棚に置く」と記載されていたのではないか。あくまで自分の想像だが、そんなふうにも思える。

一方、「関係者は『ヒューマンエラーを起こしやすい状態だった』と危険性を指摘している」とのことだが、医薬関係者でなくても、「効果も、作用の強さも全く違う成分を並べて置くのはどうなのよ?」というのが、まあ普通の感覚だろう。しかし、製造工場のような“閉じた”世界の中では、“普通”の感覚から、時にずれていくことがあるのは、何も医薬品業界に限ったことではない。しかし、そんな“ズレ”は、医薬品製造においては、起きてはならない事故に直結しかねない。今回は、まさしくそのような事例なわけだが、一方、そんなずれを“検知”する仕組みも当然あるわけで、今回、どうして、その“仕組み”が機能しなかったのかについての検証も必要だろう。

例えば、社内監査部門は、SOPの作成に対して、どのような役割を果たしていたのか、或いは社内監査部門による現場のチェック・訪問は、どのような頻度、内容だったのか。

さらに言えば、行政の関わりについても検証が必要だろう。医薬品の製造所には定期的に行政当局の査察が入っていたはずだ。その時、当該SOPは査察の対象だったのか、なかったのか、もし、対象であったなら、それに対してどのような指摘・指導をしたのか、或いはしなかったのか、さらに査察全体を通して、当該事業所に対する評価はどのようなものだったのか。万が一、査察の結果が「問題なし」、「優良事業所」の類であったとしたら、そんな「ザル」査察がまかり通ってしまった理由も詳らかにすべきだろう。

 

少し前の報道の中には、厚生労働省が「社風や経営層の姿勢が根底にある」と宣ったともある。その理由は「事案発生以降、経営層が誰も現場を確認していない」ことらしい。まあ、経営陣が現場を確認すれは、なおよかったとは思うが、会社組織のなかで、どのレイヤー(階層)の人間が現場を確認するかは、当該事案についての知識レベルも考慮されるべきだろう。例えば、東日本大震災の際、時の首相は福島第一原発に直接出かけたがったらしいが、それがどれほど実効力があることなのか、当時も疑問に思ったものだ。社長が現場を見に行かないから「社風が原因」と決めつけるのも如何なものか。どうも、今回の事故を「特定の会社の、イレギュラーな問題」として片付けようとしている意思を感じてしまうのだが、根はもっと深いところにあるような気がしてならない。

 

そんなことを感じながら、ふと思い出したのは、東海村臨界事故だ。発生したのは1999年9月30日というから、もう20年以上前のことだ。JCO東海事業所の核燃料加工施設内で、核燃料を加工中にウラン溶液が臨界に達し核分裂連鎖反応が起き、作業員2名が死亡、1名が重症となった。原因は、硝酸ウラニル溶液を、沈殿槽にステンレスバケツで流し込んでいたから。この“バケツ”での作業については、当時もずさんな作業工程管理の証左として、繰り返し報道されていたものだ。

しかし、その後、事故の検証が進むにつれ、実態は随分と違ったものだったことが明らかになる。「浪費なき成長」(内橋克人著)には、次のような記述がある。

「あの事故はそもそも、まじめな努力家たちが、いかに作業を効率的に行うか、いかに作業効率を上げて、合理化に貢献するか、企業に貢献するかということに、知恵を絞り、貯塔を利用する代わりに、ステンレスバケツを使って直接、沈殿槽に溶液を入れる、という提案をし、採用されたというのが真相です。」

そして、この事故の根本原因は、行き過ぎた、かつ間違った方向での「効率追求」にあったと結論付けている。

 

今回の混入事故を起こした小林化工は、日本ジェネリック製薬協会(GE薬協)の会員会社だ。 近頃は、“ジェネリック”という言葉も、だいぶ市民権を得てきたが、日本語では“後発(医薬)品”、医療費削減の切り札として、国もその普及と使用率の向上の為に様々な施策を講じてきた。その結果、昨年12月の厚生労働省の発表によれば、2020年9月時点でのジェネリックの使用率は78.3%だったとのこと。政府目標の80%に届かなかったが、かなりの使用率だ。先発(医薬)品との価格差を考えれば、この“ジェネリック推進” の方向性は今後も続くだろうし、間違ってもいないと思う。一方、そもそもの出発点が“医療費削減”であることから考えれば、ジェネリック市場全体が熾烈な“コスト削減”競争に晒されていることは容易に想像できる。

GE薬協のホームページを見ると、 “効率”という文字が幾度となく出てくるが、それが“行き過ぎた、かつ間違った方向”でないことを心より願う。