アラ還オヤジの備忘録

雑感や、その他諸々。

“ムーンショット”に関する、とてつもない勘違い


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以前、ネルソン・マンデラとポケトークで、英語学習にBBC Learning Englishを活用していると書いたが、その中のThe English We Speakというプログラムの先週のお題は"Moonshot"。

この言葉についてのプログラム中の説明は以下の通り。

An ambitious project carried out without any expectation of short-term profitability.

言葉の由来は、J・F・ケネディ大統領が行った二つのスピーチと言われる。

一つ目は、1961年5月25日に行われた、“Special Message to the Congress on Urgent National Needs”(「国家的緊急課題に関する特別議会演説」)の中の以下のくだり。

"This nation should commit itself to achieving the goal, before this decade is out, of landing a man on the moon and returning him safely to the earth. "

(この国は、この10年(=60年代)が終わる前に、人を月に着陸させ、安全に地球に帰還させるという目標を達成することを約束すべきだ。)

二つ目は、1962年9月12日に国民へ向けて行われた一般演説に中の以下のくだりだ。(こちらのほうが有名だろう。)

“We choose to go to the moon.” (我々は、月に行くことを選ぶ。)

そして、アポロ11号船長ニール・アームストロングと月着陸船操縦士エドウィン・オルドリンが月面着陸に成功したのは、1969年7月20日だった。

まさしく有言実行、“月面着陸”という“an ambitious project”を見事成し遂げたのだった。(私くらいの年代の方々は、小学校のテレビで、アームストロング船長が月面に第一歩をしるす瞬間を見た記憶をお持ちに違いない。)

 

実は、この“ムーンショット”プロジェクト、日本でも行われている。もちろん、目指しているのは“月面着陸”ではない。今年2月8日付の内閣府ウェブサイトには、

「7つのムーンショット目標のPM(計47人)が揃い、研究開発プロジェクトが本格的に始動しましたので、お知らせいたします。」

とある。7つのムーンショット目標として揚げられているのは、

目標1:2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現

目標2:2050年までに、超早期に疾患の予測・予防をすることができる社会を実現

目標3:2050年までに、AIとロボットの共進化により、自ら学習・行動し人と共生するロボットを実現

目標4:2050年までに、地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現

目標5:2050年までに、未利用の生物機能等のフル活用により、地球規模でムリ・ムダのない持続的な食料供給産業を創出

目標6:2050年までに、経済・産業・安全保障を飛躍的に発展させる誤り耐性型汎用量子コンピュータを実現

目標7:2040年までに、主要な疾患を予防・克服し100歳まで健康不安なく人生を楽しむためのサステイナブルな医療・介護システムを実現

 

内閣府のウェブサイトでは、予算規模に関する記載を見つけることができなかったが、新聞報道等によれば、平成30年度第2次補正予算で5年間に1000億円が計上されたとのこと。

 

お上が、国の研究振興に前向きなことは、国民としては、大変ありがたいことだと思う。その一方で、何か、とてつもない勘違いをしていないか、とも思う。以下、一般市民の“戯言”を述べてみようと思う。

まず、どの目標も、それ自体は大変素晴らしいとは思うが、“~までに”の部分を見ると腰が抜ける。目標7が2040年で、それ以外の六つの目標は全て2050年、今からおよそ30年後だ。一体誰がどうやってそんな長期間の“プロジェクト”をマネジメントするのだろう。1000億円の予算をぶち込むのはよいが、それが役に立ったのか、或いはドブに捨てたのか、どうやって検証するのだろうか?中には「BBCが紹介しているムーンショットの定義に"without any expectation of short-term profitability"とあるように、プロフィット度外視でいいのだ。」という人があるのかもしれないが、withoutしてよいのは“short-term”のプロフィットだけだ。さらに、このプロジェクトをけん引しているお役人たちは short-term ならぬ“long”-termの期間をどれくらいと考えているだろうか。アポロ計画を見てみてほしい。ケネディが「月に行く」と国民に述べたわずか7年後、その宣言通り60年代に目標を達成しているのだ。ケネディの時代より、よほど変化が速い現代社会で“30年後”に達成を目指すプロジェクトなど、そもそも“プロジェクト”と言えるのだろうか。件のBBCのプログラムを是非聞いてほしいのだが、そこで紹介されている以下の例文はアポロ計画についてではない。“An ambitious project”は、新型コロナウイルスに対するワクチン開発なのだ。

We're investing in a moonshot vaccine to help fight the virus.

新型コロナウイルスパンデミックが始まっておよそ1年、これが彼らの“ムーンショットプロジェクト”の期間(しかもlong-term)だったのだ。そして、見事に成功させた。一方、“日の丸”ムーショットは、目標の文言自体は素晴らしいが、余りに“漠”としているうえ、達成は30年後。このスピード感では、勝負になるわけがない。月が遥かかなたにあるからと言って、目標達成がはるか未来であっていいわけはないのだ。