アラ還オヤジの備忘録

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まん防と五分後の世界


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昨日の朝刊を見ていて目に入ったのは、“「まん防」使いません”の記事。

立憲民主党の議員から「ちょっとゆるいイメージがある」と指摘され、厚生労働相も「使わないようにと思っている」とのこと。

“ゆるいイメージ”ですか…。では、イメージが“ゆるく”なかったら、そのまま使い続けたのか。そういえばその昔、“は防法”というのがあった(今もあると思うが)。こちらは“破壊活動防止法”の略だが、イメージが“ゆるくない”ためか、その略称については、特に話題になったという記憶はない。

「まん防」も「は防法」も、その言葉を口にすると、何かわかったような気にはなるが、実のところ、それが一体何なのか、正確には、というよりほとんど理解していないのは、私だけではあるまい。

こうしたことは別に政治の世界だけではない。自分が社会人になったころ、組合活動をしている先輩社員が使っていた“ベア”という言葉は、最初は皆目見当がつかなかった(この文章を読まれているかたは如何だろうか)。“ベア”とはベースアップ(base up)の略。“base up”というのが、そもそも和製英語だそうだが、基本給の昇給のことだ。知らない者にとって、ベアというその語感(熊か?)から、昇給という意味は到底思い至ることが出来ないが、使い慣れてしまった側からすれば、当たり前ということになるのだろうか。

こんなことを考えながら思い出したのは、村上龍の「五分後の世界」(幻冬舎)だ。

舞台は、1945年8月9日に長崎に原爆が投下された後も降伏せず、同月19日に小倉、26日には新潟、そして翌9月の11日には舞鶴に原爆が投下され続け、やがて人口が26万人に激減していた後も、「日本国」は連合国軍を相手にゲリラ戦を繰り広げているというパラレルワールドだ。

残された日本人は地下都市で生活しているのだが、その中で、中学生のグループと将校が会話する場面が出てくる。中学生の一人が、昨夜のCNNのニュースについて将校に質問する。それに対して、将校は「CNNとは何だね?」と言うと、中学生は自分の間違いに気付き「ケーブル・ニュース・ネットワーク」と言い直すのだ。

パラレルワールドの日本では、学校では次のように教育されていた。略称で呼ぶようになってそれに慣れてしまうと、本来の意味が失われることがある、だから、フルネームで言え、と。

 

「まん防」は、“ゆるいイメージ”だから使うべきではなく、それでは本来の意味が失われてしまうからと考える政治家はいないものなのか。小説の中では、今の日本の様子が「シミュレーションの8番」として紹介されるのだが、余りに的を射すぎていて、暗澹たる気持ちになってしまう。

それにしても、昨日の新聞記事につられて久しぶりに開いた本書だが、読み始めるとページをめくる手が止まらない。著者自身、あとがきで「今までの全ての作品の中で、最高のもの」と述べているが、本書が1994年に出版されてから27年余りたった今でも、Amazonの書評に「著者の最高傑作」というコメントが複数あがっているのも頷けるのだった。