アラ還オヤジの備忘録

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ネルソン・マンデラとポケトーク


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今から一年ほど前、大学時代の同期数人で久しぶりに飲む機会があった。まだ、コロナの足音もはるか遠くにしか聞こえていなかった頃だ。

集った中の一人(ここでは“A”とする)は大学時代の研究室も同じで、就職した業界も同じ。自分の結婚式にも出席してもらったのだが、その後の人生は、大きく違った。最初に就職した会社を飛び出し、ベンチャー外資を転々とした自分と違い、Aは一つの会社を勤め上げ、今では国内有数の企業のボードメンバーの一人だ。

そうは言っても、元は同じ釜の飯を食った仲、特にお互い気を遣うでもなく、会えば40年前そのままの関係で馬鹿話ができる。彼も、「本当の意味で気兼ねなく、腹を割って話せるのは大学時代の仲間くらい」と言う。大企業の中を生き抜き、出世の道を上り詰めていくには、それ相応の苦労があったに違いない。

そんな彼も含めて、皆でビールのジョッキを傾けていると、なぜか話題が語学のことになった。するとAが、「もう語学もビジネスには必要なくなるだろうな。」と言う。(おいおい、Aともあろうものが、それは違うぞ。)と思いながらも黙って聞いていると、彼が言うには、AIの急速な発達を考えれば、機械による同時通訳も、そう遠くない時期に一般化するというのだ。

 

う~ん、確かにそう言われてみれば、そうかもしれない。明石家さんまがコマーシャルに出ていた「ポケトーク」は、なんと82言語に対応しているという。どういうアルゴリズムをつかっているのか詳しいことは知らないが、製品紹介のウェブサイトには「夢のAI通訳機」という謳い文句も踊っているから、何かしらAI絡みなのだろう。因みに公式サイトでのお値段はエントリーモデルで19,800円。Amazonで紹介されている高機能版も3万円弱だ。

大枚叩いて英会話教室に通っても、英語が上達したと実感できるようになるには、それ相応の時間もかかる。“ペラペラ”レベルに到達するのは、はるか先だ。イチキュッパで「夢のAI通訳機」が手に入るご時世なら、「語学はビジネスに不要」という考えも“アリ”と言えるだろう。

一方、ポケトークに懸念がないわけではない。実は、数年前、カミさんと都心の鉄板焼きのレストランで食事をしていた時のこと。テーブルごとに料理人がつき、目の前で調理してくれる、よくあるタイプの鉄板焼屋だったのだが、隣のテーブルで、ドイツ人カップルと思しき客が、ポケトークで“悪戦苦闘”しているのを目撃したことがあるのだ。

82言語に対応しているのだからドイツ語なんてお手の物、と思うのだが、カップルのうち、男性の方が、ポケトークで日本人シェフの説明をドイツ語に翻訳しようとしても、どうにも上手くいかない。隣で聞いているこちらが、ハラハラするほどなのだ。流石のポケトークも、料理の“ニュアンス”の表現までは、まだ手が届いていなかったようだ。では結局どうしたか。ドイツ人の客とシェフがどちらも英語を話し始めたのだ。シェフは英語に堪能という風でもなかったが、都心というレストランの場所柄、英語での料理の説明を迫られることも少なくなかったのだろう。隣で聞いていても英語でそつなく料理を説明している。客の方も“最初から英語で話せばよかった”と満足な様子だ。(来日するようなドイツ人であれば、まあ、英語も普通に話すだろう。)

それからしばらく経っているので、ポケトークも随分進化しているかもしれないが、やはり機械翻訳には限界がある気がする。近いうち、翻訳のレベルは各段に進化し、鉄板焼屋で困ることはなくなるかもしれないが、人と人のコミュニケーションの中で、言葉が果たす役割には、翻訳される“意味”以上のものがあるのではないか。

 

話は少しずれるが、自分の語学のスキルアップは、もう随分前からネットに頼り切っている。中でもBBCが提供しているBBC Learning Englishは“英会話教室いらず”と言っていいほど充実している。先ほど“大枚叩いて英会話教室に通っても…”と書いたが、実は自分は自腹で英会話教室に通ったことはない。それでも、ここ数年は、海外出張の際は、一人きりで移動、現地に行っても日本人は自分一人だけ、というケースがほとんどで、それでも何とかなっているのは、BBC Learning Englishのおかげと言っても過言ではない。

そんなBBC Learning Englishが最近6 Minute Englishというシリーズにアップロードしたトピックに、For the love of foreign languagesというのがあった。その中で、こんなセンテンスが紹介されていた。

"If you talk to a man in a language he understands, that goes to his head. If you talk to him in his language, that goes to his heart."

言葉の主は、南アフリカ初の黒人大統領、ネルソン・マンデラ。ポケトークがどれほど上手に翻訳できたとしても、それが“心”に届くことはないのではなかろうか…。

 

Aくらい偉くなれば、海外出張の際にも“お供”が付き、外国人との会話も同行した社員が通訳してくれるに違いない。そうであれば、確かに「語学は不要」かもしれないが、“自助”に頼るしかない自分には、まだ暫くBBC Learning Englishにお世話になる状況が続きそうだ。