アラ還オヤジの備忘録

雑感や、その他諸々。

社長の仕事と“仕組みと仕掛け”(そして、コロナ対策の優先順位)


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その昔、自分がある会社の代表取締役だった頃の話。何人かの若手社員から、次のような質問を受けることがあった。「社長の仕事って、何ですか?」。

こんな質問を二回り以上離れた若造から受けるというのは、よほど風通しのいい会社だったのか、或いは、社長の威厳のなさからか。前者であれば、救いもあるが、どうも後者のような気がする。「無駄なヒエラルキーがなくていいじゃないか」と思われるクチもあろう。自分でも、そういう良さもあるのではと思ったこともあったが、先日、「指導者とは」(原題:LEADERS、リチャード・ニクソン著)を再読して、(やはり、それではいけなかったのだ)と再認識させられた。

(本書については、いろいろ書きたいこともあるが、それは今日のお題から離れるので、そちらはまたの機会にして、先に進む。)

 

「社長の仕事って、何ですか?」という質問に対する回答だが、その時々のシチュエーションや相手次第で、次の2パターンを使い分けていた。

パターン1:「社員が食いっぱぐれないようにする」

パターン2:「会社がうまく回る“仕組みと仕掛け”を作る」

 

パターン1は、偽らざる心境だった。立ち上げメンバー三人でスタートした会社には、かつての部下や後輩も誘って、大きくしていった。彼らのほとんどは、名の通った大企業の社員だった。そんな彼らが、安定した企業人生活(と、それに伴う家庭生活)を顧みず、自分と一緒に仕事をしますと言ってくれたのだ。家族からの反対もあったろう。ある日、社員の家族を招待して、ランチクルーズを催した時のこと。業界最大手の会社から引き抜いたかつての部下はMBA保有者で英語も堪能、転職しようと思えば、引く手あまたに違いない人物だった。彼は、そのランチクルーズに奥さん同伴で参加したのだが、その時、彼の奥さんが私に向けた、「こんな人物が社長をやっている会社で、本当に大丈夫なのか」という厳しい眼差しを忘れることができない。何が何でも会社を成功させて、彼らが路頭に迷うようなことは断じてさせないと心に誓ったのだった。

 

パターン2は、質問してきた相手が、(自分も将来、会社を興したい)というような願望を持っているのでは、と思われるときに、そう答えることが多かったように思う。そして、私の回答に対する相手の反応は、やや期待外れ、というようなことが多かった。相手はそれを、(当たり前)と感じたか、或いは(仕組みと仕掛けを作るのは社員の仕事で社長は決裁するだけ)と思ったかもしれない。

 

上場企業のような大会社では、社長は決裁するだけかもしれないが、スタートアップはそうは行かない。社長は先頭に立って、仕組みと仕掛けを作り続け、社員にはその実行を徹底させる。上手く行けばいいが、上手く行かないこともある、というか、ほとんどの場合、上手く行かない。そして、失敗に凹む間もなく、次の手を打っていくのだ。

 

仕組み・仕掛けが上手く行かない場合、そこから期待された効果が得られないだけなら、まだいいが、それに加えて、思わぬ副作用が発生することも少なくない。

ベン・ホロウィッツは、自著「HARD THINGS」のなかで、自らの失敗談を明かしている。

彼はオプスウェアを経営していた時、「非線形四半期問題」の解決に取り組んだ。いわゆる「ホッケースティック」というやつで、四半期の売上の多くが期の終わる間際(酷い時には売上の90%が四半期最終日)に計上された。これでは事業計画が立てにくいということで、この問題を解決するために彼が取った“仕組み・仕掛け”は、四半期(3ヶ月間)中、最初の2ヶ月の間に契約がまとまった場合にボーナスというインセンティブを与えるということだった。結果、どうなったか。確かに“ホッケースティック”の曲がりは多少まっすぐになった。一方、売上は減った。社員達は、期の終わる間際に計上させる売上を、次の期の最初の2ヶ月に移しただけだったのだ。社員達は、社長の望み通り、「期中の売り上げを平坦にすること」を第一優先にした。しかしそれは、それまでの第一優先、すなわち「売上の最大化」の優先度を下げることだった。ホロウィッツの、「私は以前の売上を最大化する優先順位のほうが好きだった」との弁は、やや自嘲気味だが、私はこの失敗を笑うことができない。このようなはっきりとわかるケースほどではないものの、似たようなことは会社経営の中では日常的に起きている。一度作った“仕組み・仕掛け”が、重要度の優先順位にそぐわないとわかれば、朝令暮改などの誹りを受けようとも、速やかに撤廃、或いは修正しなければならないのだ。

 

一方、“仕組み・仕掛け”の成功例で思い出されるのは、「ティッピング・ポイント」(原題:The Tipping Point、マルコム・グラッドウェル著)の中で紹介されているサンディエゴの黒人地区で行われた乳がんに関する啓発キャンペーンの事例だ。

資金が限られる中、キャンペーンの実施者は当初、教会でセミナーを開いていたが、結果は惨憺たるものだった。そこで、彼らは、キャンペーンの実施場所を、教会からある場所に移したところ、状況が劇的に改善したという。そこはどこか。なんと「美容院」というのだ。彼らが、何故そのような場所にたどり着いたかについては、本書を読んで頂きたいが、一見何の関係性もない乳がんと美容院を結び付けた“仕組み・仕掛け”は、エレガントと言うより他ない。自分もそんな“仕組み・仕掛け”が作れたら、と思わずにはいられない。

 

さて、話は変わるが、10日ほど前に“第三波”とスーパーコンピュータの中で、“やっぱり来たか、第三波。”などと呑気なことを言っていたが、その後、これほど急激に新型コロナ感染状況が悪化するとは、正直、予想していなかった。Go to キャンペーンという“仕組み・仕掛け”が失敗であったことは、疑う余地がないだろう。ホロウィッツが間違って「売上の最大化」の優先度を下げてしまったように、「感染再拡大の阻止」の優先度を下げてしまったのだ。もう一度言う。「一度作った“仕組み・仕掛け”が、重要度の優先順位にそぐわないとわかれば、朝令暮改などの誹りを受けようとも、速やかに撤廃、或いは修正しなければならないのだ。」