アラ還オヤジの備忘録

雑感や、その他諸々。

隠れトランプとアメリカ人上司


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先週の土曜、久しぶりに東京に出る機会があった。私の“師匠”ともいえる元上司に相談したいことがあり、電話したところ、「まずは飲んで話そう」とのこと。新型コロナの現状を考えると、気後れせざるを得ないが、何しろ師匠からの提案である。恐る恐る電車を乗りつぎ、待ち合わせ場所の八重洲北口に向かった。

土曜ということもあり、平日よりは人出は少ないのではと、淡い期待を抱いていたが、そんな思いをあざ笑うかのような混雑ぶりだった。大丸の一階では、何やら人の行列ができており、デパートの店員が「最後尾はこちら」というプラカードを持ちながら、客を誘導している。“師匠”は東京住まいだが、すでに70を優に超えるお歳だ。新型コロナの感染や重症化リスクを考えると、人混みのなか、後輩の相談に乗るためにわざわざ外出して下さったことに頭が下がる。

 

さて、無事に時間通り落ち合い、店に向かう。久しぶりの再会に、まずはワインで乾杯し、早速、私の相談事に乗ってもらった。そちらについては、ほどなく結論が出て、次に話題に上がったのは、アメリカ大統領選である。

師匠が言うには、「間違いなくバイデン勝利だ。自分は日常的にCNNもチェックしている。世論調査の結果から見ても、トランプ再選はあり得ないだろう。」とのことだった。一方、私は「トランプが勝ちそうな気がします」と自分の意見を伝えた。師匠は「ロジックは何だ。理由がないだろう。」と畳み掛けてくる。確かに“ロジック”というほどのものはない。こちらは防戦一方だ。ただ、自分がこれまで仕事をしたアメリカ人上司たちのことを思うと、トランプ再選のほうが現実的に思えたのだった。

 

私のこれまでのサラリーマン生活の中で、直属の上司が外国人だった期間を計算してみると合計で6年ほど。そしてその半分以上の期間、上司はアメリカ人だった。

 

以前、“空気を読む” のは日本独自のカルチャーか?でも書いたが、アメリカ人だからと言って、皆“好戦的”なわけでもない。むしろ、場の“雰囲気”に気を配り、会議でも派手なディベートにお目にかかるようなことはめったにない。アメリカ人の同僚と話していても、日本人と同様(?)に、時には互いに遠慮のようなものをみせることもある。

また、私の上司だったアメリカ人たちを含め、多くのアメリカ人ビジネスマン、特に名の通ったグローバル企業の社員ともなれば、立ち居振る舞いはジェントル、誰に対しても非常に親切で、心配りも行き届いている。これを“博愛主義”と言うべきか疑問はあるが、すくなくとも“自国第一主義”を掲げるトランプの行動様式とは対極的だ。こんなわけで、私はこれまでアメリカ人と一緒に仕事をした中で、“トランプ支持”を明確に表明する人物に一度も出会ったことがない。それは、そうだろう。彼らが日頃見せる態度から考えれば、およそトランプは彼らとはかけ離れた人物に見える。

 

しかし、その一方で、“上司と部下”という関係性の中では、時にアメリカ人の“素”の姿を目の当たりにすることがある。“それはどう考えても無理スジだろう”というような屁理屈を、真顔で振りかざしてこられたのは、一度や二度ではない。彼らの“自分の利益”に対する執着は、日本人のそれとは桁違いだった。“全体最適”などという概念は、自らの損得勘定の前では、何の意味もない。ましてや“損して得取れ”などというのは、彼らにとっては宇宙人の言語と同様に理解不能である。彼らが時折見せるそのような言動は、「自国第一主義」ならぬ、まさに「自分第一主義」そのものなのだった。そんなアメリカ人上司を多く見てきたからか、テレビニュースで、一見普通のおばさん然とした女性が、「集計作業を中止しろ!」と叫びながら、投票所のガラス窓に拳を叩きつけている映像を見ても、何の驚きもないのだ。「まあ、アメリカ人ならありえるな」と。

 

投票について言えば、ジェントルマン然とした彼らが、普段は「トランプ支持」などおくびにも出さず、選挙では自国第一主義の候補に投票することは容易に想像できる。“隠れトランプ”について、あるテレビニュースの解説者は、「トランプは大統領なのだから、選挙民は“隠れトランプ”になる必要はない。世論調査の結果も、今回の選挙では前回と違い、隠れトランプの影響は少ないだろう」などと言っていたが、私の考えは真逆だ。この4年間、トランプの言動が衆目を集めるにつれ、「“隠れトランプ”ジェントルマン」達は、ますます表立ってトランプ支持とは言い難くなったではないか。AP通信によれば、現在、まだ開票結果が定まらない5州のうち、トランプが優勢となっているのは、アラスカとノースカロライナの2州だ。アラスカはともかく、ノースカロライナと言えば、全米屈指の名門大学であるデューク大学ノースカロライナ大学チャペルヒル校があり、州都ラリーと、隣接するダーラム、チェペルヒルを結ぶ三角地帯は、「リサーチ・トライアングル・パーク」と呼ばれる有名なハイテク産業地域だ。(話は逸れるが、デューク大と言えば、映画「ディープ・インパクト」で、宇宙船「メサイア号」の乗組員の軍医がデューク大出身という設定だったのを思い出す。)

そこにはIBMが世界最大級の拠点を置いているほか、シスコシステムズや、英国製薬大手のGSKなどが集まり、それ故ノースカロライナアメリカ南部の中では最も進歩的な州とも言われている。そんな州でさえ、トランプ優勢というのは、隠れトランプの“根深さ”を思わずにはいられない。

 

開票開始後、暫くは事前予想を覆すトランプの善戦にマスコミも随分慌てたようだが、郵便投票分の開票が進むにつれ、バイデンの勝利がほぼ固まりつつあるように見える。師匠の予想は当たり、私は外したようだ。よく考えてみれば、今回の選挙には、前回とは大きく異なる環境要因、すなわち新型コロナウイルスがあった。投票に当たっては、「コロナ対策が第一」と考えて候補を選ぶことも少なくなかっただろうし、そういう選挙民は、コロナ感染のリスクがあるなか、敢えて投票所に赴こうとは思わないだろう。であれば、当然、郵便投票を使った選挙民はバイデンに投票するケースが多いはずだ。

 

さすが師匠、ここまで織り込み済みで「バイデン当選」を予想したのだろう。まだ暫くは教えを乞う日々が続きそうだ。